判 示 事 項
1 原告は、平成23年ないし平成25年において、A事務所に所属しB基地に勤務して
おり、勤務外の日又は時間帯において猟銃等の製造・販売に係る業務(本件製造等業務
)及び鋼材の鍛錬を行う鍛冶に係る業務(本件鍛冶業務)を行っていた。本件は、原告
が、各業務に係る所得(損失)を事業所得に該当するとして給与所得と損益通算して確
定申告をしたところ、横須賀税務署長から、本件各業務に係る所得は雑所得に該当する
から損益通算は認められないとして更正処分等を受けた事案である。
2 所得税法27条1項に規定する事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営
まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的
に認められる業務から生ずる所得をいうものと解される。
3 原告は、平成23年ないし平成25年において、本件製造等業務による収入を得てお
らず、本件鍛冶業務による上記各年の収入も、順に0円、1万4000円、3万524
0円にとどまっている一方、原告は、遅くとも平成19年以降は、本件各業務による必
要経費が生じたとして、毎年、確定申告において事業所得につき400万円以上の損失
を計上している状況にある。しかも、原告は、本件製造等業務については、火縄銃の製
造技術を学んではいるが、平成26年8月時点ですら未だ火縄銃を製造する技術を有し
ておらず、現実に火縄銃の製造及び販売を行ったことがないというのであり、本件鍛冶
業務についても、今は修行中で技術が未熟であるとして宣伝広告を行っておらず、特定
の取引先はなく、作業内容を掲載する自らが開設するブログを通じて依頼があれば受け
付けているにとどまり、その収入額も上記のように極めて少額にとどまっている。
4 上記3のような事情に照らせば、本件各業務は、自己の計算と危険において独立して
営まれ、営利性、有償性を有するものとは到底認められないというべきである。しかも
、原告は、平成23年から平成25年までの間、週40時間消防業務に従事して年80
0万円以上という相当額の安定した収入を得ており、当該収入が原告が確定申告に計上
した収入金額のほとんどを占め、本件各業務は、仕事のないときに行っているものにす
ぎないのであって、これらの事情に照らせば、本件各業務は、事業としての社会的地位
が客観的に認められるものであるということもできない。以上によれば、本件各業務に
係る所得が、所得税法27条1項に規定する事業所得に当たるということはできない。
5 原告は、銃砲店が赤字であるから職業と認めないというのは憲法22条の保障する職
業選択の自由に反する旨主張する。しかし、そもそも、処分行政庁が本件各業務に係る
所得につき事業所得に該当せずに雑所得に該当すると認定したことは、原告の職業活動
や職業選択の自由を制約するものとはいえないから、原告の上記主張は採用することが
できない。
6 原告は、納税は法律で決められているから、ある者には経費を認め、ある者には経費
を認めないという課税処分をすることは、憲法14条1項に反する旨主張するところ、
これは、要するに、更正処分が、原告の本件各業務に係る所得を損益通算の認められな
い雑所得に該当するとしたことは、法律に従わないものであるから法の下の平等に反す
るという主張をするものと解される。しかし、原告の本件各業務に係る所得が雑所得に
該当するという更正処分は、所得税法を正当に解釈適用したものであるから、原告の上
記主張は、その前提を欠き失当であって、採用することができない。
判決年月日 H28-02-03 (H28-08-10) (H29-01-19)
国税庁訴資 Z266-12791(Z266-12895)(Z267-12959)
上告棄却・不受理